村上春樹の初期の短編小説に「TVピープル」というのがあります。
ハルキがルー・リードの「Original Wrapper」というミュージックビデオを見て書きたくなったという作品だそうです。
この頃のハルキの作品は人の深層心理につながる物語設定が多いのですが、読んだ直後は何かしらの比喩が表現されているというのが読み取れるのですが、その具体的な形をハッキリと思い描くことはできません。
ハルキ得意のぼやけた余白を残すという手法なのですが、ここの部分の意味付けは人それぞれの気持ちにいかようにも紐づけることができます。
例えば、心理的な部分であったり社会的な問題の部分であったり。
オリジナルラッパーというMTVを観て自分が感じたものは、ラッパーで覆い隠された本質的なものはなかなか見抜けないと言う事かなと。
他人のステレオタイプ的なレッテルを張られて、別のものにされてしまうことに注意しなさいと警告しているように感じました。
小説「TVピープル」に戻りますが。
本当の自分とはなにか。
アイデンティティとは。
自分が変わったのか、それとも周りが変わってしまったのか。
主人公の心理がボーダーの上で揺れ動いている様子が読み取れます。
色々な読みを膨らますことができるのが村上春樹が書く小説の旨味だと思います。
しばらく時が経ってから読み返すと、違う受けとめ方が出来てしまうように。
★「TVピープル」は朝日カルチャーセンター福岡で講座がありました。